このインタビューは、6Cメンバーからの質問に松本陽一が答えるという形で進みます。
メンバーすら知らなかった彼の歴史、行動、思考、策略が全てが分かったとき、
『コンクリートダイブ』の全貌が見えてくるはずです。
これを全部見れば、『コンクリートダイブ』の作り方がばっちり分かります!!
これで、よいこのみんなも『コンクリートダイブ』が作れる・・・かも。
―それでは、今回は『コンクリートダイブ』の「ヘルメット等装備品」とも言うべき、「衣装・小道具」について松本陽一さんに質問をしていきたいと思います。よろしくお願いします。
松本 よろしくお願いします。
…あの、始める前にちょっといいですか。毎回テーマを決めて話してますよね?
―はい。
松本 「果たして衣装とか小道具とかで、そんなにしゃべることがあるのか?」って思いながら今インタビューに望んでるんですけど。
―えーと。有意義なインタビューにしたいと思ってます…。
松本 あらかじめ言っておきますと、「衣装のコンセプトはどんな時に浮かびますか?」とか聞かれても、案外「知りません」とか「小道具について何を話せばいいんでしょう」みたいな、そういう感じになっちゃうと思うんですよ。
だからある意味、「三の線(=カッコつけずにぶっちゃけちゃう方向)」でテンションを上げていこうと思いますので、よろしくお願いします。このコメント使ってね。
―…はい。よろしくお願いします。
―今回は設定が「建築現場」という事で特殊な小道具が多いですが、「これだけは用意したい」と考えているものは何かありますか? (あづさからの質問)
 |
松本 今本番が近くなってますが、どうしても用意出来ない物が有るんですよ。「大きいドラム缶」です。港のゴミ捨て場とかには普通に有りそうなんですが、中々その辺には無いです。港に住んでる奴もいないし。「さあどうやって用意するか」ってことを今考え中です。今の段階ではまだ用意出来てないです…。
芝居でちょっと使うんですけど、ドラム缶が有るのと無いのとでは見栄えが違うんですよ。美術さんともそういう話をしてて。…って言うか、ドラム缶は「小道具」じゃないですね。ドラム缶は「装置」ですね。「装置の装飾」です。「小道具」っていうのは、カバンとかラッパとかナイフとか、手に乗るサイズのものなので。ドラム缶は「大道具」でしたね。
やっぱり「小道具について語る」って言うのはおかしいですよ。もちろん芝居の中で色々出て来ますよ。「天体望遠鏡」とか「カバン」とか。台本に出てくるものは全て必要ですから、特にこれっていうのはないですね。もし特別なものがあったとしても、それをばらしちゃうと芝居のネタをばらしちゃうことになっちゃうんで…。言えません。秘密です(笑)
―衣装の好みは派手ですかそれともシンプルですか?(嘉山理絵からの質問)
松本 シンプルでいいですよ。実際に普通に日々着てる服でいいと思ってます。でも、そうするとけっこう黒が多かったりとか、グレーとかベージュが多かったりとかするでしょ。普段の生活をそのまま持ち込んでも、けっこうパッとしないもんなんですよ。まあ、それがリアルでいいっていう人もいるんですけど、せっかく舞台の中での「実際にはありえない話」で七転八倒するんだから、「ドンといっちゃえ」って感じでいこうと思ってます。
―舞台が「建築現場」ということで、「現場ならではの面白い衣装」みたいなものはありますか?(チロルからの質問)
松本 登場人物の中の5・6人は作業員なんで、その「工事現場の作業服」っていうのを役者と一緒に決めていくのが面白かったですね。テレビやドラマでもそういう「工事現場のシーン」みたいなのがありますけど、ああいう職業の人たちって、実際に現場を見てみると結構カラフルなんですよね。特に鳶の人の「ニッカ」はすごいですね。すっごい色が派手で、すっごい「ぶっとい」ズボンなんですよ。「なんであんなにぶっといんだろう」と思って、役者と一緒に作業服屋さんに行って見てみることにしたんですよ。
実際に「ぶっといの」を試着で履いてみて、衣装になりそうなのを探して。そこで、店員のおじさんに「ぶっといですよねこれ」って言ったら、おじさんも「本当だよね。これ作業しにくてたまんないんだろうね」って言ってるんですよ。「なんでこんなの着るんだろう。でもファッションだからな」って(笑)「ファッション」なんですよ。いわゆるきつい現場だからそういうところで「男の華」を見せるという感じなんでしょうね。
 |
だから、作業服屋さんに行って本当に面白かったですね。普通服のサイズって「S・M・L」でしょ。指輪では「何号」とか。でも、ニッカズボンや作業服のズボンのサイズはすごいんですよ。「超(ちょう)」。スーパーの「超」なんですよ。「ロング八分」っていうちょっと太いズボンの型があるんですが、普通の太いズボンが「ロング八分」もっと太いのが「超ロング八分」次のサイズが「超超(にちょう)」その次が「超超超(さんちょう)」って感じなんですよ。だから、普通の服屋さんみたいに「私はMサイズだわ」って探すんじゃなくて、「超超超(さんちょう)かな?あっやっぱり超超(にちょう)がいいな」って探すわけですよ。なんだ「超」って単位!?びっくり!!カタログ見たらカタログにも「超超」って書いてあるし(笑)
「超ロング」なのに「八分」って意味分かんないですよ。「八分なのか長いのか。どっちなんだよ!」って(笑)いやー「超」ってすごい世界です。
―『ホテルニューパンプシャー206』のときにはあったそうなのですが、『コンクリートダイブ』では衣装の「テーマ」というものはありますか?(附田泉からの質問)
松本 『パンプ』のときは、テーマは確か「明るくいこう」って感じでしたね。部屋全体を淡い黄色というかベージュ系の色にしたので、そこに「ハデな色の役者が出てくるようにしよう」って感じで。そしたらアンケートに「色使えばいいってもんじゃない」って書いてあって、ちょっとヘコんだりしたんですけど。
基本的には「地味」って怒られるよりは「派手」って怒られた方がいいかなって思ってます。舞台だし、「嘘んこ」の世界ですからね。
―主役の衣装が「ニッカ」で、かなり大きめのものを履いていますが、松本さんのイメージ通りのものが用意できたのですか?(田中寿一からの質問)
 |
松本 カタログを見て、普通の「超ロング八分」に決めたんですけど、奴は「超超超」を買ってきやがったんですよ。いわゆる昔のヤンキーの「ドカン」ですよ。ずるずるひきずって歩くような。どっから見ても作業服じゃなくてヤンキーですよ。色も青だし。店員さんに、「貴男は超より超超超の方がいい」って言われたらしいんですよ。なんかその店員さんが女の人だったらしいんですよ。それで「そうですか」なんて買ってきやがって…。「おかしいだろ!打ち合わせと違うだろ!」って感じですよ。
皆引いてましたからね。わざわざ一緒に試着に行って、「よし、これで決まり!」ってサイズも形も大きさも決めたんですよ。それで、後日お金を持って買いに行ったら、女性の店員さんに「超超超がいいですよ」って言われて、それを買ってきやがったんですよ。「ふざけんな富沢謙二!何やってんだこのやろう!!」っていう…。
―衣装の色合いは、「主役はこんな色」という感じでパッと決めるものなのですか?(平洋太郎からの質問)
松本 イメージは有りますけど、僕は「自分の美的センス」をあまり信じてないですね。よく女優に「センスが悪い」と言われて傷ついている事もあります。大体自分一人じゃなくって、役者さんや衣装さんと一緒に決めてます。自分では、「派手好き」な気はしてますね。
―今回『コンクリートダイブ』の衣装・小道具へのこだわりは何かありますか?(小沢和之からの質問)
松本 例えば、カバンが必要だとして、「形とか色とかがイメージにあえば別にいいんじゃないか」って思わないで、本物の「グッチ」とか「プラダ」とかのカバンを用意するようなことを「こだわり」言うわけですよね。僕自身の考えは、「いい物が一番いい」って感じですね。「小津安二郎さん」や「黒澤明さん」などの「巨匠」って言われた監督さんっていうのは、そういうところにこだわってるんですよね。
例えば、こういうエピソードがあります。その人が金持ちの文豪の役で、「すごくいい万年筆」を使っているような人物だとします。カメラにその万年筆は写んないんですが、役者さんがその「文豪大先生」になりきる為に、監督は「本物のすげー高い万年筆を用意しろ」と言うんですよ。同じように、「金持ちの持ってる何百万もする壺」があって、でもそれはカメラには写んない。もし写っても、端っこの方に「ちょろっと」写る程度。でも、そこに「本物を用意しろ」と言う。こういう「こだわり」。あと、「カツ丼を食うシーン」で、「すごくいいカツ丼屋さんのカツ丼」をわざわざ取り寄せたりっていうのもやってたらしいですね。
単純に「予算があった」っていうのもあるんでしょうけど、「役者さんがなりきるため」っていうことなんでしょうね。あと、「役者へのプレッシャー」っていうことも言ってましたね。小津監督の作品に出てた人が「全部本物を用意することは、役者がなりきるためのサポートなんですよ。でも逆に言うと、“役者は嘘の芝居が出来無い”ということでもあるわけですよ。“全部本物なのになんでお前が偽物なんだ”っていうプレッシャーを感じました」ってことをおっしゃってましたね。
まあ、「高価な本物の壺」なんていうものは今回出てきませんけどね。でも、普段から「本物に近い形」っていうのは大事だと思います。さすがに巨匠のお二人のようなとこまでは今の僕らには出来ませんけど。でも、例えば小道具で「名刺入れと名刺」がいるっていうときに、「紙切れ」でやっているのと「本物の名刺」でやるのとでは、やはり役者の動きが変わってくると思います。
『傷心館の幽霊』(2000年上演)より

↑サラリーマン・寺田秀彦(松本陽一) |
僕も自分が役者をやってるときに、普通のサラリーマンの方が普段やるような「名刺入れを開けて名刺を取り出してスッと渡す」いう動きをしたんですよ。でも、その動作を知っててもやった事が無かったんで、実際にその役になってその動作をやろうとしたときにけっこう苦労しましたね。「簡単な事」と思ってたんですけどね(笑)だから、本物の「名刺と名刺入れ」を本番直前に用意していたとしたら、本番でのその芝居は「嘘」になってたわけですよ。本当の「名刺と名刺入れ」を前もって用意して稽古でも使ってたから、どうにか僕も「本物のサラリーマン」になれた。
だから、「本物のセメント」や「本物のヘルメット」や「本物の鉄パイプ」があって初めて、「本物の現場作業員になれる」っていうこともあるんでしょうね。そういう風にこだわっていければなあと思います。細かい小道具を「そんな小さなことで」って言わずに、細かくやっていかないとあかんというわけです。
―キャラクターでは「演歌歌手」がお気に入りのようですが、衣装ではどの役の衣装がお気に入りですか?(浅田啓治からの質問)
松本 別に演歌歌手が「お気に入りのキャラクター」ってわけでもないですよ。一番「変わったキャラクターだ」っていう話をしただけなんですけど(笑)
衣装で誰がお気に入りかというと…もちろん演歌歌手です(笑)やっぱり一番目立ちますよこの人は。というわけで、演歌歌手「二冠」ということで。あと芝居でも頑張って「三冠」とれるといいねこの人(笑)
―「ジャージ」などの「抽象的な衣装」での舞台をやってみたいと思いますか?(宇田川美樹からの質問)
松本 「ジャージ劇団」けっこうありますね。僕はジャージでやってる劇団は「金が無い」だけだと思います。そういえば、「つかこうへい劇団」でもやってましたね。じゃあ最初つかさんも金が無かったんだ。で、ジャージでやったら結構評判良かったからそのままそれでいっちゃったんだ(笑)
あれはホント「金が無い」だけにしか思えませんね。金があって時代劇のセットがバーンと組めて鎧とかもつけれればつけると思いますよ。世の中銭ですよ銭(笑)だから、もし僕が時代劇をやることがあっても、ジャージは嫌です。着せません(笑)っていうか、「抽象系」の衣装をやるつもりは今はあんまりないです。
 |
―「時代劇で着物」の舞台をやってみたいと思ったことはありますか?(富沢謙二からの質問)
松本 金が無いんでね。予算表とか見て、「この予算なら時代劇がやれそう」ってときに、「今だっ!」って感じでみたいにやるかもしれない(笑)まあ別に、今時代劇を書きたいとかみじんも思ってませんし、書けるとも思ってませんから。言われてみると、「鎧」とか「甲冑」とか面白そうとは思いますね。「侍」とか東洋のものだけじゃなくて、西洋のとかも面白そうですね。
女優にも甲冑着せて、「女武士」とか面白そうね。宇田川美樹がよだれたらしそうだ(笑)宇田川美樹が女武士で、いきなりスポットライトが点いて「私は女武士のナントカカントカだーっ」って感じでストーリーが「どどんっ」て始まって、「おっ!今回どんな舞台になるんだ」って思ったら、いきなりそいつがズボッて刺されて、そこから芝居が始まる。宇田川どっきり企画(笑)
―「使ってみたい小道具」は何かありますか?(松本雄介からの質問)
松本 うーん。そうですねー。あ、例えばシュワルツネッガーが持ってるような「ガトリング」みたいなものとか。面白いかもしれませんね、そういうものからストーリーを思いつくっていうのも。
そういえば、以前もそういうのがありました。『ホテルニューパンプシャー206』の「アタッシュケース」。「銀色のアタッシュケース」が舞台の上にあるっていうイメージをひらめいて、「あ、なんか面白そう」って思ったんですよ。まさに「インスピレーション」って感じでしたね。最初はその小道具をあまり意味がないように出しておいて、後になって「あっ!これ使えばこの危機乗り切れない!?」みたいな流れになるっていう。お客さんは「あ!伏線だっ!」って思うわけですよ。でも実は偶然の思いつきだったっていう。執筆途中の稽古のときに「あっ!これが置いてあった!これ使おう!!」みたいな(笑)
 |
今までで一番思い入れのある小道具というと、映画『レオン』の「植木鉢」ですね。小道具をああいう使い方が出来たらかっこいいでしょうねえ…。あの「植木鉢」は助演男優賞ですよ。この「植木鉢」の話は今日の「小道具」というテーマにまさに「ふさわしい」感じがしますね。ああいうような小道具の使い方が出来るようなストーリーっていいですよね。だって「植木鉢が心に残る」ってどんな映像でしょう…。あの「植木鉢」は本当に良かった。
…なんか最後の最後でようやく具体的なエピソードが出てきましたね(笑)
―それでは次回は、公演直前の「抱負・意気込み」をお聞きしていきたいと思います。ありがとうございました。
松本 ありがとうございました。
続く
|