このインタビューは、6Cメンバーからの質問に松本陽一が答えるという形で進みます。 メンバーすら知らなかった彼の歴史、行動、思考、策略が全てが分かったとき、 『コンクリートダイブ』の全貌が見えてくるはずです。 これを全部見れば、『コンクリートダイブ』の作り方がばっちり分かります!!
これで、よいこのみんなも『コンクリートダイブ』が作れる・・・かも。
―それでは、今回は『コンクリートダイブ』の「設計図」とも言うべき、ストーリーについて松本陽一さんに色々聞いていきたいと思います。よろしくお願いします。 松本 よろしくお願いします。
−『ホテルニューパンプシャー206』(以下『パンプ』)、『ミキシング・レディオ』(以下『ミキシン』)、『コンクリートダイブ』と松本作品は3作品コメディーが続いてますが、今後コメディー以外の台本を書いてみたいと思いますか?(栗原和滉からの質問)
松本 思いますね。シリアス系とか書いてみたいと思います。今回の作品は前作(『ミキシン』)に比べてややシリアス路線なんですが、今後人の「死」や「生き様」なんか書いてみたいと思ってます。
それから、アンハッピーエンドな結末のストーリーなんかも書いてみたいですね。アンハッピーエンドって人の心に「ズシン」と残るものがあるじゃないですか。「ものすごくせつない芝居が終わって、明かりが消えた瞬間客席からワーッと歓声と拍手があがる」そんな台本が書けたら最高ですね。
−今回の『コンクリートダイブ』は前2作品(『パンプ』、『ミキシン』)と違う点はどんなところですか?(あづさからの質問)
松本 まず男性2人が主人公という点ですね。6番シードは、ここ何作品かはっきりとした主役がいないような話や、女性が主役の話が続いてたんですよ。だから、単純に今回は「男性でいこう」と、そこから始まりましたね。元々主人公というとカッコいいイメージがあるじゃないですか。でも、男はいつも「カッコ悪い」っていう感覚が僕の中にはあって、「カッコいい男性」というイメージがわかなかったんですよ。「カッコいい女性」なら、異性ということで憧れとかでイメージが沸いたりするんですけどね。そういうところで少し苦労しましたね。
あと、前2作品とも1つの部屋の中での「密室劇」だったんで、そこから飛び出してみようと思って、「じゃあ外だ」、「外がいい」ということになったんです。それで、「外って何だろう」って考えてて、以前工事現場の前を通ったときに、6Cの仲間と「鉄骨がいっぱいあって面白いな」なんて話をしたことを思い出したんですよ。そこだったら正に
「男が主役」が面白いじゃないか、という感じで、「夜の工事現場」で「男性が主人公」の話を書こうと思いついた、というわけです。
密室劇というものは、書く時に規制が多いんですよ。例えば、「人の出入り」だとか。特に前2作品は、「2時間の話を2時間で伝える」、つまり場面転換などによる「時間の経過」をしない「密室ノンストップ劇」だったんで、規制は多かったですね。よくある「時間省略」だったり「場面転換」だったり、そういうシーンができない所を前回は楽しんだんですが、今回はそういう事を取り払ってみようかなと思って、設定を「外」にしてみました。
でも実際やってみると、「密室劇の方がいいかな」って思うところがいっぱいありますね。「外」設定の芝居だと、ストーリーと登場人物をどんな風に絡ませるかが大変なんですよ。
要するに、「用の無い人間は帰れちゃう」わけですからね(笑)場所が工事現場なだけに、「現場作業員」っていうのが何人か出てきますけど、それ以外の人達が「用の無い工事現場に居続ける」っていう設定を作るのが大変でしたね。気を許すと帰ってしまえる状況になってしまいますからね。そういった苦労もありながら、今回の作品は作られていったんです(笑)
−3作品(『パンプ』、『ミキシン』、『コンクリートダイブ』)とも舞台の時間設定は深夜ですが、夜に特別な思い入れがあるんですか?(名賀谷純子からの質問)
松本 昼間って「健全」じゃないですか。例えば、「お日様の下で野球をしたり」とかいう芝居ってのはあんまり好きじゃないんですよ。その点、夜っていうのはどこか「ドロドロ」してたり、どこか「癖」のあったりするような感じがして…。そういうところで、夜を選んでしまうのかもしれませんね。
逆に、昼間にゴチャゴチャしたことって起きないような…。「癖のあるキャラクター」というものを考えたときに、ある種「夜の不健康なイメージ」が浮かんだですよ。
自分が書いてる時間帯が夜だからって事もあるのかもしれませんけどね。昼間だとあまりイメージが浮かばないんですよね(笑)基本的に朝や昼間が苦手なんですが、いつかは書いてみたいと思ってます。
−今回の舞台は工事現場ですが、実際に現場でのアルバイトの経験はあるんですか?(附田泉からの質問)
松本 ありますよ。随分前ですけど、2週間ぐらいの間日雇いで肉体労働系のバイトをしたことがあります。埃まみれで仕事するところがちょっと苦手でしたね。最近は、セットのイメージの参考になるかなと思って、町の至るところにある建設現場とかで、現場の方とお会いして話を聞いたりもしてました。
−どんな時、どんな所でストーリーのアイデアを考えるんでしょうか?(土屋兼久からの質問)
松本 いろんなところですね。あまりこれといった場所は無いんですが、電車の中とか、車の中とか、居酒屋とか…。そういったところですね。電車の中で本とか読んだりする人とかいますよね。移動の時間を使って、レポートを書いたりとか、本を読んだりとか、役者さんだったら台本を読んだりとか。そこで知識を得たりしてるわけじゃないですか。それはすごく時間を有効に使えていると思うんですよ。そういう意味で、僕にとって電車はすごくいい場所ですね。
書くという作業自体は机の上で行うんですが、他の場所でイメージが盛り上がってきたところで机に向かうという感じですね。
一度、アイデアが浮かばないときにあえて電車に乗って、始点から終点を行き来してみようかと思ったことはあります。やったことはないけど(笑)でも、電車に対しての先入観はありますね。
よく「トイレの中でアイデアを出す」っていう人がいますよね。けっこうそういった感じの「そこにいけば何かが浮かぶ」というような、「思い込み」のようなものかもしれませんね。他にも、すごくアイデアに困ったときには、役者とかをつかまえて台本について雑談をしたりもしますね。「この後どんな展開がいい?」だとか、「キミのキャラクターはこの後どんな風にストーリーに絡んでいきたい?」だとか。半分冗談で聞くんですが、まじめに答える人もいますね。実はそんなことは聞いてはいなくて、人と話すことによってイメージをまとめたりしてるわけです。困ったときは人つかまえて話します(笑)
−今回の『コンクリートダイブ』というタイトルの決め手となったものは何ですか?(宇田川美樹からの質問)
松本 「音の響き」ですね。元々コンセプトとして「コンクリート=都会」、そして登場人物達が「夜の都会にバーンと飛び込んで走り回るエネルギー」みたいなイメージがあったんですよ。でも、よくよく調べてみたら「コンクリート詰めで海に沈められる」みたいな物騒な使い方でこの『コンクリートダイブ』という言葉が使われているみたいで…。一応言っておきますけど、そういう物騒な話ではないです(笑)
−最初にひらめいたシーンはどこですか?またそれはどんなきっかけでひらめいたんですか?(嘉山理絵からの質問)
松本 あるはずなんですけど、毎回台本書き終わったときには覚えてないんですよね(笑)
今回はオープニングかな?「男二人が誰もいない建築現場にやってくる」っていう。あとは、ネタばれになるかもしれないんで伏せ気味に話しますが、「工事現場の一階と二階で同時に事件が起こる」というシーンですね。最初は下だけで起こるって考えてたんですが、「それだけじゃつまんないなあ」って思ったんですよ。それで、「上も起こしちゃえ」って感じで。まあ、起こした後で「どうしよう」って思ったんですけどね(笑)
−逆に、ストーリーの結末はどんな風にして生まれるんでしょうか?(栗原和滉からの質問)
松本 あらかじめ結末を考えてる場合もあるし、書いている途中で出来上がるときもあるし、様々ですね。最初考えていた結末が、書いている流れによって段々変わったりもしますね。大体、半分ぐらい書いたころに固まってきます。最初から考えてる場合でも、それはだいぶ漠然としたものですからね。書き始めるとその結末に向かってまっしぐらなんですけど、途中でずれていって、当初考えてたラストが崩れていったり(笑)今回は本当に突き進むだけ突き進んで、「なるようになれ」って感じの書き方をしました。ラストの生まれ方にもいろんなパターンがありますね。
−「台本が進まなくて眠れない」ときはありますか?(あづさからの質問)
松本 夜仕事から帰ってきて、台本を書くときにコーヒーをアホみたいに飲むんですよ。それで、くたくたに疲れて「今日は書けない!さあ寝よう!」という時に目がギンギンになる…。そんな眠れぬ夜ってありますよね(笑)
あと、お酒を飲んで気を紛らわせたりしますね。「コーヒーがぶ飲みして寝れなくなる→寝ようと思ってお酒がぶ飲みする→で、寝る」。めちゃめちゃ不健康ですね。不健康な生活してます(笑)
それで、「不健康な作品」が作りたいと思うのかも。そんな生活してるのに、太陽の下で「いい天気だなぁ、ガンバろう鈴木君!」「そうだね田中君!」なんて作品は書けるわけありませんよ。キャラクターがどこか汚れているのは僕のせいかもしれないね(笑)
−前2作(『パンプ』、『ミキシン』)には、あまり「熱いラブロマンス」の要素がありませんでしたが、今回の『コンクリートダイブ』にはありますか?また、これから書く予定は?(浅田啓治からの質問)
松本 基本的に「恋愛もの」っていうのはあまり好きではないですね。登場人物が多数いる中で、「ひとつの連帯感」や「心の変化」ってものが生まれるのかもしれませんが、あまり積極的に描く気はないですね。
「テーマは恋愛です」っていうのは嫌ですね。ストーリーの中にそのエッセンスがあるっていうのはいいんですけど…。
男と女が「恋愛でも友情でもない何かでつながっている」っていう映画とかドラマとかってあるでしょう。そういう話は割と好きですね。昔、飲みに行った居酒屋の女将さんにそういう話をしたら、「あんた馬鹿ねぇ、男と女はラブシーンが無きゃだめなのよ」って言われたことがありますね。「世の中いろんな人がいるなぁ」なんて思いました(笑)
−今ここでストーリーのネタを少しバラせるとしたら、それはどこのシーンですか?(平洋太郎からの質問)
松本 今回「ストーリー」について色々聞かれましたが、僕はすぐにネタをばらしてしまう危険性があるので、語りづらいところがありましたね。とりあえず「工事現場にハプニング」が起こるというお話です。あとは秘密です。
―それでは次回は、「舞台美術」について色々お聞きしていきたいと思います。ありがとうございました。
松本 ありがとうございました。
続く
|