先週からの続き・・・

VO2

2001年に行われた第一回「ねりまの隠れ宿」公演では初の試みをあって、メンバーも緊張の中、幕があがった。しかし、メンバーの不安をよそにお客様からの好評を得、もう一度この企画をとの声もあり、そして今回再び行われるということになった。さて松本はどのように「ねりまの隠れ宿」を創りあげるのだろう。

「今回のコンセプトは「小さい」ですね。いつもは大きく派手になんて思ってますが、今回は劇場も小さく、人数も小さくです。3つで1本の時間ですから、時間も小さい。テーマになっている映画も小さいというか地味で、寂れた劇場でやるような映画で。すべてが小さいんです。今回は小さな3つの寓話を作りたかったんです。街の片隅で起こったような小さなお話をやってみたかったんです。」

「ねりまの隠れ宿」公演は通常の公演とは一味もふた味も違うもののようだ。いつもとは違う何かを見ることができるだろう。

「こういう劇場での公演は久しぶりですね。実は現代劇からして久しぶりなんです。西部の街に行ったり、日本の戦後に行ったり、その前はアメリカに行ったり。ちょっと奇想天外な設定を好んで使ってたんでしょうね。そんなんばっかり続いていたので、今回はごく普通の現代劇です。台本を書いてて役名を書くのに、軽い違和感がありましたよ。“普通だなって、カタカナじゃないのかよって(笑)。”最初にカタカナの役名書いたときも違和感ありましたけどね、そんな感じ。
芝居以外でもいろいろ考えています。隠れ宿っていう企画にしても、ここは普通の一軒家なので芝居を観にきたお客様にしてみればここか!って感じなんですよ。入り口もガラガラって開ける引き戸なんです。ま、これを変えるのは無理ですが。玄関に入ったときから、お客様を異空間に連れて行けたらいいなって思います。これは僕だけじゃなくて、劇団員みんな思っていることなんですけどね。」

松本自身、前回の公演(「露の見た夢」)では役者として参加。しばらく作家活動とは離れ、今回の企画までいつもとは違う時間を過ごしてきたという。執筆活動にも今までと違いがあったようだ。

「4月公演が終わって、ちょっと時間があったんですよ。1ヶ月くらい。みんなは基礎稽古していたんですけどね。なので、慌てずゆっくり書こうと思いました。単純にいつもより時間があったってことなんですけどね。今回の作品の質なんでしょうけど、1本が短いから書き上げようと思ったら、ばーっといけちゃうんです。ばーっと書きあがったり、ばーっと書いてばーっと捨てちゃったり、色々なんですが。なんか短い3つの話ってそれはそれで大変なんですが、3つの話を書きあげたって感はあります。ま、今現在はまた3つ目を執筆中なんですけどね。だからそういう意味でもいつもとは違いますね。」

ということは、今回は台本完成の喜びもいつもの3倍味わうことができるということだ。

「それが違うんですよ。あと1ページで第1話を書き上げるって時に「もう達成感がくるの?」って「こりゃすげえ。達成感が3倍だ」思って、いざ書きあがったら、喜びは3分の1でした(笑)。2話目があがったときもやっぱり3分の1。こりゃ3話目が終わったときも3分の1かなって。3話分足せば1公演分の達成感なんですが、最終的に全部書き上げたときの達成感はいつもの3分の1なのかなって…。最後の達成感は3分の1で終わるの!?って。実際のとこどうなんでしょうね。」

稽古も当然3話分。それだけでもいつもとは稽古スタイルが変わってくる。

「一話一話稽古していきますから、役者には自分の出番じゃない話の稽古の時は別室で自主稽古してもらってます。みんな待ちが長いんで大変だとは思いますが、その時間をどう使ってくれるかですよね。僕、結構役者を放置するのが好きかもしれないです。実は手取り足取りっていうのは面倒くさい。稽古も2人や3人で小さく芝居を作っていくっていう今回のスタイルが、新鮮で面白いです。」

演出家、スタッフ、役者ともに今回の公演では何か新しいものを感じているようだ。しかし、それを創り上げるのは簡単なものではないであろう。それゆえ稽古場では集中し凝縮された空気が広がっていると言う。

「芝居自体もそういう話にしたいんです。ぎゅっと密度の濃い。第1話が終わったときにまだこの人たちを観ていたいなって思って欲しいんです。もちろん2話も3話も。どの話ももっと観ていたいよっていう、贅沢な時間にしたいんですよ。3つの話がね、コメディータッチだったり、シリアスだったり、3色パンみたいな感じなんです。とはいっても、僕が書くんでそのテイストはどの話にも出ちゃうんですけどね。今まで書いてたノンストップコメディあり、今までにない作風あり、それを分けて書くのが楽しかったです。笑いあり涙…まではいきませんが、しっとりありでね。そういうところを楽しんでもらえたらいいなと思います。
隠れ宿の企画として、終演後お客様とお話できるというのも楽しみにしています。たぶんそういう企画になると思うんですけど。芸術劇場とは役者との距離感はまったく違いますからね。アトリエ公演って聞いてお客様がどう思うかはわからないんですけど、「ちょっとランクの下がった公演だろうな」とか「実験的な公演だろうな」とか、そういうイメージがあるかもしれませんが、まったく違います。劇場を面白いサイズにしたってだけで、むしろ面白さはいつも以上かもしれない。なんて豪語しちゃうね!もしアトリエ公演と聞いてそういう悪いイメージを持っていらっしゃるお客様がいるとしたら、そうじゃないってことを声を大にして言いたいです。むしろこれはいろんな意味で面白い公演ですよ!って。」

今回のインタビューでしっかりとした強い自信が伝わってきた。今まで6番シードを観てきたお客さま、またこれからご覧いただくお客さまにも新鮮な驚きと確かな満足をもたらすものになりそうだ。
ねりまの隠れ宿公演「最後の1フィート 〜一篇の物語を巡る3つの物語〜」。
どうぞお見逃しなく!!

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松本陽一プロフィール