:::: ラストシャフル :::: 劇団6番シード第23回公演 池袋演劇祭参加公演
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「ブレーカーが落ちた! 〜長年の夢アトリエ公演〜」

 「そうだな、練馬区の住宅街だから普通のお客様には分かりにくい。だから―ねりまの隠れ宿公演―ってのはどうだ?」
 久間は上機嫌だった。

2003年7月、三年前に稽古場を上石神井にかまえてから、ことあるごとに企画しては消えてきた「アトリエ公演」。今まで支えてくださったお客様を稽古場に一度ご招待したい。夏公演終了と冬公演の稽古開始までに一ヶ月半の期間が開いた為、久間はなかば強引にこの企画を推し進めた。
「稽古場でやるってことは、劇場代がかからないってことだぞ。セットだって事前に組めるし、搬送用のトラックもいらない。限りなくゼロの予算で公演が打てるんだ!いいことずくめじゃないか」
劇団の財政は相変わらず厳しかった。その言葉にメンバーも色めきだった。
限りなくゼロの予算、になるはずだった。

〜隠れ宿公演より〜

 
 

 6番シードの稽古場は、練馬の閑静な住宅街にある一軒家だった。元生け花教室という20畳の和室を稽古場とし、地下の駐車場スペースは大道具製作のタタキ場と姿を変えていた。20畳の半分を舞台、半分を客席としてアトリエ公演の準備が始まった。客席は40席だった。
「この狭い稽古場で『空が青いなあ』なんて芝居をしてもリアリティがない。室内劇にしよう」
 傷心館という名の喫茶店に集まった4人の女。やがて開かれる一風変わった復讐パーティ…。場面はすべて室内。演目は「傷心館の幽霊」に決まった。
 稽古の初日に、ある女優が言った。 
「物語の中でもパーティがありますよね。それに引っかけて、上演後にお客様をご招待して本当のパーティを開くってどうですか?」
「いいねえ」
久間はすぐにのっかった。

「立食という形を取ったとしても、40名が三回で120名様、この予算ではお茶漬けしか出せません」
 最初の予算オーバーはパーティの食材費だった。
「みんなでお茶漬け食うのも悪くないんじゃないかな。ははは…」
 久間の顔にはまだ幾分かの余裕があった。
「分かった。せっかくおもてなしするんだから、レストランと見間違えるような料理を作ってくれ」

 「まだ到着しません」
 駅から稽古場まで慣れた足で20分。稽古場を知らない知人にお願いして地図だけで稽古場まで来てもらった。40分が過ぎても、まだ現れなかった。
「よし全員ですべての曲がり角に看板を持って立とう」
「芝居する人間がいなくなります」
「そうだね」
 新たに送迎用のレンタカー代が予算表に書き込まれた。

「駄目ですね。痔になりそうです」
客席用に用意した平台の上で通し稽古を見たスタッフが呟いた。座布団で二時間は限界だった。
「こっちのほうが安いかな…ん、これは掘り出しものだぞ」
久間は深夜の自宅でパソコンに語りかけていた。
数日後、ネットオークションでパイプ椅子40脚を落札した。

 
 

 本番一週間前、すべての準備を突貫工事で終え、関係者を集めてレセプションが開かれた。「傷心館の幽霊」の上演、そしてパーティまですべて本番と同様に進める予定だった。
「暑いなあ、9月だというのに真夏日だよ」
来場した関係者の一人が汗をふきながら久間に語りかけた。
「大丈夫ですよ。稽古場には小さいながらもエアコンがありますし」
「一台で大丈夫かな。だって芝居やるってことは照明も沢山あるんでしょ。役者やお客さんの熱気も充満するしね」
「まさか…」
 久間の予感は的中した。2時間10分の上演を終えたとき、客席は地獄絵図と化していた。
 稽古場の温度計は39度を指していた。

 久間はその足で銀行に向かい、そして走った。
 行き先はヤマダ電器だった。

 本番三日前、20畳対応の大型エアコンが稽古場に設置された。
「これでもう大丈夫だ。俺の財布以外は。さあ、最後の稽古を始めよう」
その瞬間、稽古場は暗黒に包まれた。
エアコン二台、照明20灯、音響ミキサーとその周辺機器、パーティ用のパンの試作品作りの為稼動していたオーブン二台。
ブレーカーが落ちた。普通の一軒家だった。

本番当日、司会である松本陽一と名賀屋純子の前説に、奇妙な一節が加えられた。
「このアトリエは普通の一軒家です。そこで何十という照明をつけ、エアコンを二台稼動させております。調理の為のオーブンも回ってます。どんな事態になるかお分かりになりますか」
 本番までのわずかな時間で出来る限りの対策が講じられた。電力会社にかけあって、わずかな期間で電圧を上げてもらった。タコ足にタコ足を重ね、エアコン二台と音響機材はすべて別の電源から取った。オーブンと照明機材は同時にスイッチを入れないという約束がなされた。当日は室内の配電盤にはブレーカー番が一名。外にある家の大元となる配電盤にも一名。それでも可能性がゼロではなかった。役者は最後のリハーサルの後、上演中にブレーカーが落ちた際のアドリブ対応のリハーサルをした。
 奇妙な前説を終え、アトリエ公演「傷心館の幽霊」の幕が開いた。

「2000年の初演の時に、チラシなんかを今までの10倍くらい刷ったりしてね。それでうまいこと連日満員御礼が出たんだ」
 その結果を受け、3ヶ月後、念願の稽古場を練馬区に持つこととなった。
「初めてのアトリエ公演がその傷心館だなんて、面白いもんだね」
 舞台は間もなくカーテンコールになろうとしていた。
久間は本番中一度も落ちることのなかった配電盤を見つめながら、そう呟いた。

〜〜〜初演より〜〜〜

 

「傷心館の幽霊〜


〈特別版〉
2000/4/14-16
銀座小劇場

<アトリエ公演>2003/9/20・21・23
 何かに導かれるように傷心館に集まった自殺願望の女3人。
やがて開かれるパーティー。
ゲストに呼ばれた男達は、
さえない中年サラリーマン、
ホスト風の遊び人、
それに良家の御曹司。

調子はずれのメロディーに乗せて、
ちょっぴり間抜けな復讐劇が始まった。
女の執念、幽霊の怨念、オカマの情念、果たして1番怖いのは・・・?