:::: ラストシャフル :::: 劇団6番シード第23回公演 池袋演劇祭参加公演
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 2001年、7月。築地ブディストホールの客席で久間は祈っていた。
「このシーンさえうまくいけば、このシーンさえ…」
主人公真理が、帽子を取り長い髪を出して自分が女だと告白する、この作品の山場だった。
真理役のあづさが帽子に手をかけた。祈るように組んだ久間の手に汗がにじむ。
「三度目の正直だ。頼む、ズラ。頼む、ズラ。ズラ、ズラ、ズラ!」
声に出していた。
周りの客が何人か席を立った。

 脚本二作目となる「星より昴く」、久間は2001年の再演が初めての演出だった。当時の稽古場に入団希望で訪れた見学者に、久間はこの作品への想いを語った。
「これはあんまりきれいなラブストーリーじゃないんだ。今風のクールな感じじゃなくてね。売れないコメディアンを世に出そうと頑張る不器用な女の子の話。男のふりをしてそのコメディアンに尽くすんだけど、最後には自分が女だってバラさなきゃいけなくなる。帽子を取るとね、長くてさらさらできれいな髪がお客さんの目の前に現れる、そこがこの作品のクライマックス」
見学者はその話に引き込まれた。
「だからね…これなんだ」
久間は鞄から大事そうに、あるものを取り出した。
ズラだった。

過去三度上演されたこの作品の主人公、真理を演じた女優はいずれもショートカットだった。帽子に隠れた長い髪を表現するには、ズラが必要だった。

「ズラ待ちでーす」
見学者は耳慣れない待ち時間に戸惑った。稽古場の更衣室で、真理役のあづさがヘアピンと格闘しながらズラを装着していた。
30分が過ぎた。
「お待たせしました」
長い待ち時間の末、稽古場に現れたのは、アフロヘアのズラをかぶった松本陽一(当時26)だった。
松本陽一(当時26)
「お待たせしました」
続いて、小沢和之(当時32)が女性用のズラをかぶって現れた。
小沢和之(当時32)
見学者は言葉を失った。
「他にもけっこうズラがいるんだ。コメディだからね」
久間は事もなげに説明した。
「お待たせしました」
富沢謙二(当時30)が薔薇をくわえて現れた。衣装はシースルーだった。
富沢謙二(当時30)
「じゃあ準備が整ったところで三幕の稽古にいこうか」
見学者はゆっくりと、帰る準備をした。


 久間は1995年の初演で、サンライズ出版の記者、権藤役で役者として舞台に上がっている。
「97年の「桐の林で二十日鼠を殺すには」の天宮良蔵役より、ずいぶんとやりやすかったね。だからって訳じゃないけど、アンケートNO.1だったよ」
普通に自慢した。
当時を記録したVTRにその様子が残されている。
作品の舞台となる崎山プロダクションの社長に見つかり、サンライズ出版の名刺を渡すシーン。久間は颯爽と舞台に登場した。
「いやあ、見つかってしまいましたね。どうも、崎山プロダクションの…」
久間の表情が曇った。
「崎山プロダクションの…は、ここでしたね。ははは。私は、サンライズ、出版の権藤です」
グダグダだった。

 稽古場ではクライマックスシーンの稽古が始まろうとしていた。見学者は今までとは違う張り詰めた空気に息を呑んだ。
「このシーンは今までずっとうまくいかなかったんだ、三度目の正直だ。頼むよ」
久間の激が飛んだ。
あづさが帽子を取る。髪は団子状になっていた。
「もっとこう、さらっと落ちる感じ。そう、ビダルサスーンみたいに」
久間は白熱していた。
「ビダルサスーンだよ、分かるでしょ」
帽子を取る。ズラごと落ちた。
「ズラが落ちたら笑えないよっ。ビダルサスーンもう一回」
帽子を取る。静電気で逆立った。
「ビダルサスーン!」
帽子を取る。あづさは泣きそうだった。
「ビダルサスーン!!」
見学者は、そっと稽古場を後にした。

この帽子をとると こうなる。× こうなる。○

築地ブディストホール。舞台上のあづさは自信満々だった。ヘアピンを30本駆使し、静電気防止リングをそっと腕にはめ、大きすぎず小さすぎない帽子を特注し、ズラは毎日リンスしていた。馬用だった。
帽子を取る。髪がさらりと流れるように落ちた。
その瞬間、舞台上にいる役者、袖で見守るスタッフ全員が心の中でつぶやいた。
「ビダルサスーンだ」

その後もあづさは、運命に導かれるように別の台本で3回ズラをかぶることになった。
ズラ女優の誕生だった。

 

次回は「公演中止か!?〜台風接近!山の手線が止まった夜〜」
― 紅い華のデ・ジャ・ヴュー ―
星より昴く」
売れないコメディアン龍二と、男に扮して鞄持ちとなる真理を描いたコミカルなラブストーリー。ちなみに松本陽一のアフロも富沢謙二の薔薇も、台本には出てこない本人たちの暴走技。タイトルは、真理の友人初江が男の格好をしてまで龍二を成功させようとしている真理の姿を見て「あんたの愛は、星より昴く(たかく)輝いてるよ」と語る決め台詞から。1995年、初演。1999年、6C初の番外公演として、一日限りのゲリラ公演を行う。
1995年、初演。
六本木フォンテーヌ
1999年、再演。(無料ゲリラ公演)
ART GROUND エウロス
2001年、再々演。
築地ブディストホール