(第一幕)
ト書き
 踏切の警報機音が聞こえる。赤い点滅に照らし出される京子。上手から近づく電車。意を決したように飛び込もうとするが、飛び込めない。電車が通り過ぎ、点滅と警報機の音がやむ。肩で息をしている京子。
 再び赤い点滅と警報機音。今度は下手からの電車の音。眼を閉じ、叫びながら飛び込もうとするが、やっぱり飛び込めない。その場にへたり込み、ぼう然と通り過ぎた電車を見送る。ふと見ると、上手に若い女(美里)が立っている……。

(第二幕)
美里 「私たち、もう生きていたくないんです」
京子 「こんな人生もういやなの」
風子 「人生いやって」
絹子 「(グラスを持ってテーブルに)分かる、分かる
    わよ、その気持ち」
美里 「とにかく死にたいんです」
絹子 「分かるわ〜、その気持ち。どうせいい事なん
    か無いですもの」

(第三幕 三場)
リリー「新宿の二丁目にあるの、あたしが働いてる
    お店。名前は「アグリーダックリン」醜いアヒル
    の子って意味。名前とは裏腹に、このお店、
    ママがステキだから結構繁盛しているのよ。
    優しくて面倒見が良くて、本物の女以上に女
    らしくて綺麗なママ。勿論、そのママっていうの
    が、あたしリリーよ」

(第三幕 四場)
美里 「何言ってるんですか、私、係長の奥さんにな
    るんでしょう、返すなんて言わないでください。
    私の物は係長の物じゃないですか」
寺田 「秋野君」
美里 「係長、私、私、きっといい奥さんになります。
    私、私」
寺田 「泣くな、泣くな秋野君、泣くな〜」

(第五幕)
寺田 「(洋介に)あの、失礼ですが、おたくもアメリカ
    ンドリームリッチの」
洋介 「え、」
寺田 「いや、ですからコンピューターで選ばれて…
    …失礼、勘違い」
  「(洋介に)もしかして、おたく、リリーさんの」
洋介 「リリー?」
  「いや、岩谷鉄夫さんの遺言の件で」
洋介 「は?」

(第五幕)
  「さっきからそれ(仮面)気になってるんだけど」
美里 「イベント中で、外せない事になっているんで
    す」
  「ああ、イベントね」
寺田 「あの、私もいただけるかな」

(第五幕)
銀次 「そや短く読んだらな。あと三人世話になるで」
寺田 「 これは、墨、連、会、すみれ会じゃない」
浩  「ね、クラスメイトの集まりが悪いからって言っ
     たよね」
京子 「英語にした方が柔らかくなるかと思ったんで
    すけど」
銀次「 組員の集まりが悪うてな」
洋介 「それ訳し方違う」

(第五幕)
洋介「 (木札を)これが五百円、これが千円ですね」
リリー 「銀次、きっちり説明しろって言ったろ」
銀次「 へい、兄貴。(三人に)このどアホ。もう一度説
    明したるから、よう聞いとれよ。木札は白が五
    百万、黒が一千万円そういうこっちゃ」
洋介 「そ、そんな」
寺田「 メチャクチャですよ」

(第六幕)
美里 「生まれてたら、きっと係長に良く似た、おでこ
    の広い男の赤ちゃん」
寺田 「俺が悪かった、赦してくれ」
美里 「でも、電車に轢かれた時、おなかの赤ちゃん
    も……こんなになっちゃいました」
寺田 「うわ〜(その場に気を失って倒れる)」

(第七幕)
風子 「遺産の取り分が少ないって、私に食ってかか
    ったり」
浩  「それは俺じゃないだろ」
風子 「脂ぎった顔で『姉ちゃん、ええケツしとるやん
    け』なんて、セクハラじゃないですか。私のお
    尻と遺言の執行と何の関係があるんですか
    〜」
  「やめろ、落ちる、危ない、やめてくれ〜」

(第八幕)
京子 「分かりません、でも‥‥死にたい気持ちもな
    くなっちゃって、何だか、もう一度、人生をやり
    直せそうな、やり直したいって、思えてきて」
美里 「京子さん」
京子 「今度の事、みんなで一緒に計画して、準備し
    て、何だかすごく楽しかった」
リリー 「それ、私も同じ、男達三人が私達の共通の
     敵みたいな気持ちになって」

(第九幕)
リリー 「黄色よ」
  「 ピンク」
絹子 「もう、分かった、私が決めてあげるわよ、その
    代わり文句言っちゃだめよ」
二人 「は〜い」
絹子 「まったく。 (リリー、浩、絹子、上手に退場)」
風子 「(退場した三人を目で追いながら)絹子さんの
    方こそ、自業自得ですよ」