今から十年以上前に「FBI心理分析官」という本を買いました。まだ脚本なんて書いたこともなく、書こうとも思っていなかった頃だと思います。何を思ってこの本に手を伸ばしたのか今では思い出せませんが、当時は聞いたこともなかった「交渉人」とか「プロファイリング」という言葉に興奮したのを覚えています。
それから10年、「交渉人」や「プロファイリング」も映画やドラマの世界ですっかりお馴染みとなり、そんな映画を観ながら、まるで自分が追いかけていたアイドルがメジャーになって寂しくなるのと同じ感覚を味わっていたのです。
・・・でも待てよ。
そもそも日本に交渉人なんかいるのかな、立てこもり事件なんて多くて年に一回、それは商売として成り立たないのではないか・・・。
交渉って「会話」だよな、会話の妙で事件を解決する。「会話」を一番得意としているのは、映画でもドラマでもなく・・・舞台じゃないか。そんな野望が私の頭の中を走り始めたのです。すぐさま本棚で埃を被っていた「FBI心理分析官」を取り出し、舞台ではまだやってない(であろう)ノンストップ交渉劇の企画に取り掛かりました。

2006年春、とあるビルで起こった立てこもり事件の「完全生中継」をどうぞお見逃しなく!

脚本・演出 松本陽一