第三章第三節  「末期の言葉」
         ―夜明けの処刑場―

「あんた、マサロの聖者って呼ばれてるんだろ、だったら俺を助けてみろよ」
(第1幕、一緒に杭に繋がれているラクサーダにタジムが泣きながらわめく)

盗人の見た夢
図1
 聖者ラクサーダと共に処刑されるはずだった盗人タジム。ラクサーダの残した末期の言葉によって生き長らえ、砂の都アスカリナで、やがて聖者として成長していく。夜明けの処刑場(図1)に始まり、そして処刑場で終わるこの作品は、タジムが様々な人間と共に歩んだ僅かな時間(注1)の物語である。ラクサーダの末期の言葉によってタジムを利用しようと考えた祭司長ラビナス、千騎長ハンガスによってタジムとの別れることとなったカナとシャッポ、邦司コンパーレとその娘メディナもラクサーダの言葉によってタジムと関わることとなる。そしてラクサーダの教えを信じる見習い僧モキとの出会い。
 処刑場での末期の言葉から、タジムとこの世界に生きる様々な人間のストーリーが動き始めたのだ。

注1―僅かな時間といっても、作品上は一年近い年月が流れている。ちなみに上演時間は2時間40分、全然僅かじゃない。

刑場の露
図2
 物語の終盤で登場するモンゴル兵(図2)。タジムによってマサロもサラガヤにも平和が訪れ、華やかな祭りを楽しんでいるその時に、彼らの登場によって物語は一変する。
 そしてモンゴル兵によって刑場に引き出されたタジムは、再び戻ってきたこの刑場でラクサーダに語り始める。それを見守ることしか出来ないカナとシャッポ、そしてハンガスとモキ。

「少しだけ永らえた命で随分違う生き方をさせて頂きました。結局ここに戻って来ましたが、あの時刑場の露と消えるはずだった男が、僅かな時間見せてもらった一場の夢が、今終わります・・・ラクサーダ、今度は笑ってそっちに行けます」

夜明けの刑場に始まり、そして刑場で終わる。これは遥かいにしえを生きた一人の男の物語である。