藤本 卓 - モキ役

 最近一人の人と出会いました。今年の9月くらいの出来事だったでしょうか。
 それから、彼との付き合いが始まったのですが、彼はまったくこころを開いてくれませんでした。
 少しずつ詰め寄って近づいてを繰り返してみたのですが、どうも、しっくりきません。
 もとから人づきあいが下手な自分のこと、そんなもどかしい日々が続き、彼との付き合いをあきらめかけた時もありました。けれど、人生の皮肉か、幸運か、過酷な共同生活を送ることになったのです。
 後戻りできなくなったとき、今度は自分を売り込むだけでなく、一歩引いて相手のことを考えてみることにしました。彼の言う言葉を一つ一つかみしめながら、心の中で何度も呟いて、そして、彼と同じ気持ちになって。 言葉に隠されたどんな些細な感情も逃さないように、相手に対して真摯になり、謙虚にかつ鋭く分析して・・・
 誰に頼ることもできないそんな孤独な作業が毎日続きました。

 彼は決して満たされているとは言えません。心理的にも、身体的にも。自分の力ではどうしようもない力によって強力な圧力をかけられて、それでいて、それにつぶされないように毎日を頑張っている。
 もし、自分が彼と同じ境遇に置かれたときにはどうなるだろうか。
 そう考えたときふと思ったことがありました。
 今までは「このとき彼はどんな気持ちなのか、どういうことを思うのか」そればかりを考えていたのですが、そうじゃなく、「自分がその状況の置かれたときはどう思うか」と言うことを思ったときに急に彼に「こんな時あなたならどうしますか?」と聞かれたような気持ちになりました。
 今までは自分が質問するだけで一切の解答をもらえ無いどころか、自分への興味すら持ってくれなかった彼が始めて自分に質問をしてくれたのです。
 その時から彼との付き合いが面白くなってきました。現金なもんですが。
 けれど、そんな彼との付き合いは後2週間くらいしかありません。
 12月4日の千秋楽で自分が舞台にたつ最後の幕が終わり、舞台袖にはけたとき、彼との付き合いは終わりを告げます。それまでに彼とどれだけ親しくなれるのでしょうか?
 というわけでモキくん。君の役がどうしようもなく欲しかったキャスティング前の気持ちや、役をとれた時の気持ちを思いだして、あと2週間、時には喧嘩もするかも知れないけれど、二人で仲良くやっていきましょうや。 

萩巣 千恵子 - カナ役

 盗人三人組の中の一人。仲間は自分より年下の
 男の子シャッポと、自分よりも年上のタジム。
 大人になってくるとだんだん、「ずっとこのままではいられない現実」というものが分かってきてしまう。
 でもカナという女の子はそういうことをまだ知らないと思う。
 永遠というものを信じていると思う。
 タジムとシャッポといつまでも一緒に居るという永遠を。
 今、私の隣では猫がお布団の上に暖かそうなタオルをひいてその上に丸くなっている。
 猫は眠りが浅い、でもうちの猫は飼い慣らされて本当に無防備に寝ているように見える。
 カナ、シャッポ、タジム達は盗人としてきっと住む場所も一カ所ではないだろう。
 だからきっと眠りも浅いのかな。
 でもきっとお互いを守るように、眠りが浅いとしても心は安らかなのではないかな。
 安定した暮らしではない中でたったひとつの自分の心の安まる場所、無防備な自分をさらけ出せる場所。
 物が満ち足りた現代に生きる私には想像に難しいくらいの苦しさやつらさがあるだろう。
 この三人組は、とても濃い絆で結ばれているのだろう。
 嘘や裏切りは死と直結するくらいに。
 それは盗人として暮らしているから、周りの人間は敵、唯一の心のよりどころがタジム、シャッポだから。
 そういうカナの、タジムとシャッポに対する気持ちを舞台の上で表現したいと思う。そして、ブディストホールの大きな舞台をいっぱい使って、最高の盗人三人組ワールドを繰り広げたいと思います。

湯澤 典子 - シャッポ役

 6Cメンバーの中で、ハイスクール組(ここでいうハイスクールとは、高校のことではなく、メンバーの中で年齢が上の方のこと)に入ることを断固として拒否し、まだまだその域ではないと言い続けてきた私ですが、ここ最近そろそろそれを認めなくてはいけない。現実から目をそらしてはいけないのだと思い始めました。いや、思い知らされた矢先のことでした。
 少年シャッポを演じることになりました。
 少年-年の若い人。わかもの。多くの男子という。広辞苑より
 まぁ、遠目から見れば子供と何ら変わりありませんが・・・
 で、この少年シャッポくんは一見お調子者で、ちょっぴりまぬけな感じなんだけど、本当は他人には心を開かず、いつも警戒していて結構孤独な少年なのではないかと思うんです。
 だから、その分、心を許した仲間には安心してめちゃくちゃ甘えたり、心から笑ったり、ふざけたりするんだと。
 そんな奥深い彼を見ていると、自分にはない物を持っているような気がします。
 稽古をしていると、ハイスクール組にはいるのは、もう少し先延ばしにしなくちゃなと思う今日この頃であります。


小沢和之 - ハンガス役

 ハンガスは千騎長。千人物の兵士の頂点に立つ男。側に上司(邦司)に対する忠誠心、千騎長としてのプライド等様々な想いがあると思います。
 冷徹なハンガスの人間的なところをうまく伝えられたらと思います。

あづさ - メディナ役

 自慢ではありませんが、上京してこの3年、実年齢よりも若く見られたことは一度もありません。「ねえさん」「おばさん」と呼ばれ始めて久しくない私が、今回は15歳のお姫様役。恐らく私という人間を知っている人々はそんな私を見て@爆笑するA呆れるBその代わりように感心することでしょう。いや、きっとB番だと信じて止まないのですが。もう私の純粋さや無邪気さはほぼ完全に影を潜めてしまって、人生のイヤな部分を冷めた態度で対処してしまうようになりました。これは成長であり、一方で大切な何かを失っていることでもあるのでしょうね。だからこそ、まだ目に映るもの全てがキラキラ輝いていた昔の私を思い出して奮起しているのであります。
 女の子だったら一度はお姫様に憧れるものです。かく言う私も今ではすっかり男勝りになってしまいましたが、小さい頃は白雪姫やシンデレラなんかの絵本を読みながら「きっといつか私も白馬に乗った王子様と出会うんだ」なんて夢見ていたものでした。母親の寝室にこっそり忍び込んで、お化粧の真似事なんかやってみたりもしたもんでした。実年齢よりも上の役をやるとなればまだ経験したことの無い年齢だからいろんなイメージが作れるものです。しかし、年下の役というのは役作り上、いろんな先入観が邪魔したりするんです。だけど、実は、そうやって自分も一度は歩んだ時期なんですよね。
 白いドレスでガラスの靴をはいたブロンドの美少女、私が昔描いていたお姫様像はそんなかんじでした。今の私はそのイメージ通りのお姫様にはなれないかもしれないけど、もうかなわないと思っていた夢が叶うなんて、やっぱり芝居って素敵だなあ、なんて改めて感じている今日この頃なのです。