思い出の
第12回公演「露の見た夢」
築地 ブディストホール

出演者数総勢30名、異国時代劇という作品で、全キャストの衣装は全て手作り。しかも、二役なんて当たり前というほどの配役で、結局100着以上の衣装を制作。
どんな衣装を作るかということで、久間氏と話し合うものの、衣装担当の人間との意思疎通が上手くいかず、レンタルビデオショップに走り、図書館へ走り、参考になりそうなものを見せていく。やっとイメージが出来上がると、今度は激安な布を求めてさ迷い歩き、各キャストの寸法を測って作っていく。「ミシンなんて使った事ありません」なんて言葉は誰も聞いてくれない。「出来なくてもやれ」って世界です。
稽古と稽古のほんの隙間を余すことなく使って作り上げた衣装も「なんか違う」という久間氏の一言で、また一から作り直し…。
そんなこんなの過酷な日々を過していた本番の数日前。
衣装の責任者が久間氏に呼び出された。廊下の隅でコソコソする久間氏に嫌な予感
「やっぱりあのシーンは別の衣装がいいから、もう一着作れないかな…」と。予感的中である。
「作ります。作りますが、今回出来たからといって、また出来るとは思わないで下さいね」ときちんとクギもさしておいたとか。


本番のオープニング。セットから飛び降りた宇田川は着地に失敗。左足かかとを打撲。全治2週間と診断された。
終演後、銀座の街を『走れメロス』のような衣装を着けたままスタッフにおぶられ病院まで走ったのだ。
しかし劇場に帰ってきた彼女を待っていたのは、優しい労いの言葉でも、心配の言葉でもない。「ダブルの役者とチェンジしろ」という厳しい久間氏の言葉。
楽屋のなんとも言えない重い空気の中、「大丈夫です。(舞台に)立てます」と答える宇田川に「お前が大丈夫かどうかは問題じゃない。ダメな芝居をお客様に観せるわけにはいかない」という久間氏。普段の柔和な笑顔はどこへやらである。そういう世界なのです。どんなに辛くても、誰も彼女をかばう事は出来ないのです。
でも結局は降ろされることなく、彼女も足の痛みを感じさせることなく演じきり、無事公演を終える事が出来たのだ。