第七話  「ホタルおじさん」

 浅黒い肌を露にした半袖のシャツに、ボロ布と間違えそうな鞄を肩から下げて、その男は16番ゲートに姿を現した。日本の3月に半袖はまだ早い。出張に向かうサラリーマンや、大きな旅行鞄を押す観光客たちは、鼻歌を歌いながら入国手続きを済ませているその男の姿に好奇の視線を送った。
 午後10時の成田空港。マレーシア航空464便は、定刻通りにニューデリーから日本へのフライトを終えた。
「さすがに、日本は寒いな」
東京へ向かう京成線の改札に向かいながら、その男は呟いた。昨年の暮れからの長い放浪の旅を終え久し振りの日本も、その男にはさほど感慨に浸るものでもなかったようである。
「さすがに今から行っても稽古場には誰もいないだろうな。本番まであとわずかか、あいつら、ちゃんとやってんのかな」
ホームにはみぞれ交じりの雪が降っている。その男は、鞄から何やら民族衣裳のような布を取り出し全身を覆った。
「寒いはずだよ」
そう言って、富沢謙二は、その日本では場違いな格好を気にする素振りもなく電車に飛び乗った。

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宮岡と森口は、木更津から東京湾アクアラインに乗り、ひたすらトンネルの中を走っていた。時間はもう深夜を回っている。森口はあくびを噛み殺すに必死だった。
「ねえ、運転代わろうか」
「いや、大丈夫」
明らかに大丈夫では無さそうだったが、宮岡は本人の意志を尊重した。もとよりパーキングに着くまで交替は出来ない。
 森口は眠気をこらえる為に、必死でいろんなことを考えようとした。そして、一番目が覚めるのは、やはり松本のことを考えることだということに気づいた。
五井海岸から出発してようやく一時間が過ぎようとしていた。
「しかし、あの雪の中、例え3時間で千葉から横浜に行けたとして、何でわざわざ松本さんの前の家になんか行ったんだろう」
ようやく宮岡に話せるようなまともな質問を思いついて、森口は安堵した。
「・・・そうよね、トム君の意志だったとしても変だし、もし犯人がいるのなら尚更そんな場所には行ったりしないでしょう」
宮岡が答えた。
「例えば、誘拐犯には家がなくて、松本さんに『だったら前の俺んち来なよ、鍵が無くても入れるんだぜ』って誘われた、とか」
なかなか名推理は出てこない。森口は力無く笑った。
「・・・でもあながち間違ってはいないわ。だって誘拐犯が前に住んでた家を知ってるとは思えないもの」
「松本さんの知り合いなら知ってるかも」
「そうね、そうなるわね。・・・でも、待って」
「何」
「トム君は稽古場に『五井沢村のバス停が見たい』って書き残したわよね。ていうことは、もし横浜の家から、そのバス停が見つかったら・・・」
「確かに見つけたね、俺が」
「私達は、これは何か意味があるって思うわ」
「思ったね」
「あのバス停は97年の再演のビデオ用に作られて、たまたまあの家の物置に放置されてた。この事件とは本来何も関係が無かったはずのものなのよ。それをトム君が思い出して・・・何らかの理由で犯人をそこに向かわせた」
「どういうこと?」
「つまり、何も持たずに稽古場から誘拐されたトム君が、何とかして私達にメッセージを伝える手段を考えた時に、『五井沢村のバス停が見たい』という書き置きが、例えばもともとただの落書きだったとしても、意味のあるものになる、ヒントになるにはどうするか、って考えたとしたら。その時、あの物置のバス停を思い出した」
「そして犯人をそこに向かわせた」
「そして、私達にあの家でバス停を見つけてもらって・・・」
「流し台に残した暗号で、犯人、または行き先を記した。・・・でも、もし松本さんがそう思ったとしても、犯人が素直に『はい、わかりました。横浜ですね』って応じると思うかい?」
「そうね・・・でも、犯人にもあの家に何日かいなければならない必然があったとしたら・・・」
「必然?どんな」
「それは・・・」
そう言って宮岡は、首を横に振った。
「分からないわ」

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 稽古場に一人残って、藤本は宙を眺めていた。松本の残した暗号が『午前中指定』と分かって、そして今日小沢の取った行動を見て、藤本は確信した。
メンバー達が宅急便ドライバーの早瀬を疑い、さっきまで長々と尋問が繰り返されていた。しかし何のことを言っているのかさっぱり分からないといった早瀬の態度や、そして何より早瀬が誘拐犯なら今ここにいるはずも無いことと、わざわざ頻繁に犯行現場に出入りするのもおかしいという理由から、ようやく解放されたのだった。松本雄介達は『しっぽをつかんでやる』と解放された早瀬を尾行していった。
尋問している間、藤本は沈黙を守っていた。犯人は早瀬さんじゃない、そう思いながらも口には出せなかった。
「本当の犯人は・・・」
藤本がそう呟いた時、背後に人の気配を感じた。藤本は慌てて振り返った。
「卓、何やってんだ、こんな時間まで」
そう言って懐かしそうに稽古場を眺めながら、富沢謙二が立っている。
「謙二さん・・・。いつ日本に戻ってきたんですか」
「さっきだよ、ついさっき。寒いな日本は、まだ雪が振ってんのか」
「ええ、まあ・・・」
藤本は混乱した。何から話したらいいものか、何を話していいものか分からなくなった。そんな藤本を見て富沢が尋ねる。
「何だよ、犯人って」
「聞いてたん、ですか」
「何だ、芝居の台詞か。『桐の林』にそんな台詞あったか?」
藤本は稽古場の壁に掛けられたホワイトボードの隅を指差した。富沢が覗き込む。
「ん・・・敷島役・松本陽一。へえートム君が敷島か。合ってるな、ぴったりだよ。もう本番まであとちょっとだろ、どうだい稽古のほうは」
「ええ・・・それが」
「何だよ卓、稽古うまくいってないのか」
と富沢が笑う。
「それが・・・・松本さんが・・・」
「あ?トム君がどうしたんだ。本番直前になって逃亡したか」
「いえ、逃亡、じゃなくて・・・」
「何だよ」
「・・・失踪、いや・・・誘拐、されたんです」
藤本の震える声に、ようやく富沢の顔から笑いが消えた。

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「ねえ、ホタルおじさんの噂って、知ってる?」
しばらく沈黙が続いた車内の空気を変えようと、森口が突然切りだした。
「やめてよ、怖い話は嫌い」
「いや、怖くないよ。ほら、俺もテレビで見たことあるんだけど、このトンネル工事って一大プロジェクトだっただろ。その当時の現場責任者の一人が、ずーっとトンネルの中にこもりっきりで仕事してたんだって」
「それでノイローゼになって自殺して幽霊になったとか」
「まだ先があるんだよ。その人が仕事に夢中になってる間に、その人の家が火事になっちゃってさ、その人の奥さんと子供3人、みんな死んじゃったんだよ」 「だから怖いのは駄目なんだって」
「それがね、開通する直前だったらしいんだ。それ以来、その人の行方は突然分からなくなったんだけど」
「蒸発しちゃったの?」
「うん、でもね。それからずいぶん経ってから、もちろん開通した後に、海ほたるに一人の浮浪者が住んでいるって話が出たんだ。そしてその浮浪者がその人そっくりだって話になって」 「待って、海ほたるは言わば孤島でしょ。どうやって住むことが出来るのよ」
「だから噂では、その一家を失ったその現場責任者が、トンネルの車の通らない秘密の通路みたいな、工事した人しか分からないような場所で暮らしながら、時折うみほたるに姿を現してるんじゃないかって噂」
「一家を失った悲しみから、トンネルに引きこもっちゃったって訳ね」
「そう、そういう事。ねえ、やっぱり海ほたるに着いたら運転代わってよ」
男のくせに根性が無いなと宮岡は思ったが、身の安全には代えられなかった。
「いいわよ、海ほたるに着いたらね」

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 藤本は、富沢にひとしきり事件の経過を説明した後、言葉を詰まらせた。正直、自分の考えを否定したい気持ちもあった。そんな迷いを振り切らせるように富沢は言った。 「で、犯人は誰なんだよ。さっきお前呟いてただろ。お前は知ってんのか」
藤本は、富沢のそういうざっくりした性格が好きだったが、今度ばかりはぼやかしたい気持ちがあった。しかし、時間が無い。藤本は重い口を開いた。 「・・・その宅急便の早瀬さんの前の担当者、青柳さんは、小沢さんの古い友人だったんです。しかし小沢さんはそれを僕たちに隠した。そして、松本さんの残した暗号は『午前中指定』。おそらくこれは、この稽古場に来ている宅急便のことを指していると思います。松本さんが台本に残した『五井沢村のバス停が見たい』というメッセージ。その意味を知っていたのは、僕と、小沢さん。・・・そして、さっき小沢さんの携帯の着信履歴を調べてみたんです。事件のあった大雪の降った日の。そしたら・・・」
「何が出てきたんだ」
「あの日、稽古場の脇に止まっていた黒のスカイライン。それはその後、午後6時に五井海岸に向かっています。そのスカイラインが稽古場に止まっていたのは、早瀬さんの証言から午後2時から3時の間。そして、小沢さんの着信に・・・『午後2時15分、青柳』という履歴が残っていました」
「共犯者、か」
「僕だって信じたくはありませんけど、それなら全てつじつまが合うんです。あれだけ人のいた稽古場から誘拐するには、松本さんをむりやり拉致することは不可能です。小沢さんなら、誰にも注目されること無く松本さんを稽古場の外に連れ出せます」 「そして、青柳って男の運転するスカイラインに乗せた」
「そうです。午後6時より後についた雪の上の足跡だって、小沢さんは稽古場にいたんだから、簡単に工作することは出来ます。そして松本さんが失踪したように見せかけた・・・」
富沢はしばらく考え込んだ後、藤本に尋ねた。
「動機は?何故、カズさんがトム君を誘拐する必要があったんだ?」
「動機は・・・」
藤本は再び言葉を詰まらせた。そんな藤本を見て富沢は微笑んだ。
「役者はな、まず気持ちだよ。形とか動きとか台詞にこだわってちゃ駄目だ。カズさんには動機が無い。つまり気持ちが無いのに行動は起こせない。違うか」
「・・・ええ」
「僕だって信じたくはない、って言ったよな」
「はい」
「だったら、信じるなよ。あの善人を絵に書いたようなカズさんと、雪の上の足跡と、お前はどっちを信用するんだ」
「そうですよね。だけど・・・」
「そうだなー、お、こういうのはどうだ。カズさんも被害者だった。トム君もカズさんも被害者」
「・・・どういう、意味ですか」
「つまりだな・・・」
そう言いかけて、富沢は急に喋るのをやめてしまった。そして入口のほうを見据えた。
「どうしたんですか」藤本が尋ねる。
「誰だ。聞いてたんなら入ってこいよ」
と富沢は入口の闇に向かって話しかける。入口からは何の応答も無い。
稽古場の時計が夜中の3時を指しながら、カチカチと無機質な音を刻んでいた。藤本には、それがひどく長い時間のように感じられた。
その静寂を破るように、富沢はまた、闇に向かって話し始めた。
「その整髪料の匂いはキツすぎだよ、ここまで匂ってくる。そろそろ違うのに変えたほうがいいんじゃないの、カズさん」
富沢がそう言うと、暗闇の中から、ゆっくりと小沢の顔が浮かび上がってきた。
「まいったな、謙ちゃんにはかなわないや」
小沢はゆっくりと稽古場に足を進めながら苦笑した。
「久し振りだね、カズさん」
富沢は、そう言って小沢に向かって微笑んだ。

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「あしーたがあるさ♪あしーたがあるさ♪あしーたが・・・」
東京湾アクアラインのパーキング、海ほたるに車を停め、森口は自動販売機からコーヒーを取り出していた。
「あたしもコーヒー」
と宮岡が歩いてくる。もう夜が明けてもよさそうな時間だった。
「はいよ」
と森口が2つ目の缶コーヒーを宮岡に手渡した時、ふと一人の人物が森口の目に入ってきた。
「・・・ねえ、あの人、ホタルおじさんじゃない?」
「え、どの人」
「ほらあそこ」
と森口は、ベンチに座っている初老の男を指差した。パーキングにも車はほとんど停まっていなかった。その男はベンチに座った格好でうたた寝をしているようだった。
「さあ、どうかしら。もしそうだったとしても、寝ているみたいよ。起こしちゃ可哀相だわ」
と宮岡はホタルおじさんの噂を信じているふりをして、森口に話を合わせた。
「さあ、急ぎましょ。運転代わるから」
と宮岡が車に戻ろうとした時、森口が奇声を上げた。
「あづさ!」
宮岡は慌てて立ち止まった。
「どうしたのよ」
「あのホタルおじさんの服、見てみなよ・・・」
「え?」
と宮岡がその男に視線を送った。そしてそのまま凍りついてしまった。
「オレンジ色、だよね」と森口。
宮岡が走る。森口も後に続いた。その男の元まで二人は駆け寄った。そして肩口の部分を確認した。
「・・・間違いないわ」
その男はオレンジ色のジャージに肩口に白のテープで『6』と書かれた上着を着て、眠っていた。
「トム君の稽古着よ」
「一体どういうことなんだ・・」
その時、二人の気配に気付いて、その男が目を覚ました。そして青ざめた二人の男女が目の前に立っているのを見て、怪訝そうな顔を露にした。
「何だい、何か俺に用か」
そう言ってその男は二人をしばらく見つめた後、立ち上がってその場を立ち去ろうとした。
「待ってください」
と宮岡が引き止める。男は無視して歩き続けた。
「ホタルおじさん」
思わず森口はそう叫んだ。男はゆっくりと立ち止まって、背を向けたままぽつりと呟いた。
「・・・誰が言い出したのか知らないが、あんたらも、もの珍しくて俺を見ていたクチか。・・・その何とかおじさんって言うのは一体何なんだ。俺はただのホームレスだよ」
「あの、その上着はどこで手に入れたんですか」
宮岡は、男のそばに寄って尋ねた。
「手に入れたとは人聞きが悪いな。おれは俺のものだよ」
「そのジャージは、私の知り合いのものだったんです」
「これは俺のものだ」
「そのジャージ、俺たちにくれませんか。大事なものなんです。お金なら払います」
「へへ、そんなに大事かい、このジャージが。あいにくこれは暖かくて気に入ってんだ。それに、俺は金なんかいらない、そんなもの持ってても、焚き火にくべる位しか使い道が無いからな」
「・・・じゃあ、私のこのコートと変えてくれませんか。こっちのほうが暖かいですよ」
と、宮岡は自分のコートを脱ぎ始めた。その様子を見て男はニヤニヤと笑い始めた。
「金で解決しないとなると、みんなすぐ脱ぎ始めるんだな。俺はそんなに寒そうに見えるかい」
「どういうことですか」と森口。
「このジャージもな。そうやって物々交換して貰ったものなんだよ。確かにあの日は寒かったからな」
「それは・・・大雪が降った日ですか?」と宮岡が尋ねる。
「二人連れの男が、一方は金を払うって言ったんだか、俺がいらないって言ったら、もう一方の男が自分の着ていたジャージを脱ぎ始めたのさ」
「やっぱりトム君の他に、もう一人いたんだ。黒のスカイラインに乗っていた人物が」宮岡は呟いた。
「あの、物々交換って、何と交換したんですか」
「あの日は、さすがにこのパーキングにも誰もいなくてな。そこにその二人を乗せた車がやっていたんだよ。雪の上にオイルの跡をつけながらな」
「オイルの跡?」
「故障してやがったのさ。一人の男が雪の中で格闘してるんで、あんまり可哀相になって、俺の持ってる油を分けてやったのさ。このジャージと引き換えにな。機械油なんざ、俺の寝ぐらにごろごろ転がってるからな」
「その二人は・・・いや、ジャージを着てなかったほうはどんな人でしたか」
「いちいち覚えてねえよ」
「二人は、二人はどんな感じでしたか。仲がよさそうだったとか、その逆とか・・」
「片一方の男が何だか偉そうだったな。もう一人に命令してるような感じだったかな」
そう言って男は宮岡のコートを掴みとった。
「お、ぴったりだよ」
気に入った様子だった。
「ホタルおじさんの寝ぐらって・・・」
と森口は聞こうとして言葉を飲んだ。その台詞を聞いて、男はまた元の無愛想な表情に戻った。
「ほら、そんなに大事ならくれてやるよ」
そう言ってジャージを脱ぎ捨てて、男はまた歩き出した。その姿を見送りながら宮岡は森口に言った。
「これで、トム君が五井海岸にいたことも、ここを通って横浜に行ったことも、そして、誘拐犯がいたことも立証されたわ。今までは憶測に過ぎなかったけど、このジャージは・・・」
「立派な証拠だね。あ、そうだ。ホタルおじさんにお礼言わなきゃ」
そう言って、森口は男の元へ走り寄っていった。
「あの・・・」
その初老の男は、ため息をついて立ち止まった。
「まだ何か用か」
「いえ・・・ありがとうございました」
男はしばらく黙っていたが、やがてフンッと鼻を鳴らして再び背を向けた。
「あの・・・ホタルおじさんは、ずっとトンネルの中で暮らしていくんですか」
「・・・・・・このトンネルは金ばっかりかかって大して人様の役には立ってない。別に無くたって困る代物じゃない。こんな物に命を賭ける奴の気が知れない」
「そうですかね」
「・・・あんたらは困ってたみたいだな。俺みたいな者でも少しは役に立ったかい」
「ええ、立ちまくりですよ」
「・・・そうかい、それはよかった」
かすかに笑った、ように森口には見えた。
「まあ、そのうち海と穴ん中が飽きたら、陸にでも上がってみるさ」
そう言って男は、闇の中に消えていった。
 再びトンネルの中の単調な景色に戻ったが、二人は完全に眠気が吹っ飛んでいた。
「ホタルおじさんにオイルを貰ったとしても、車の故障は直ってないわけだよね」と森口が興奮気味に言った。
「そうね、それにトム君とその犯人が横浜の家に何日か滞在した理由、これは、」
「車を修理していた時間だ」
「例えば、神奈川のどこか、あるいはそれよりも西に犯人は向かっていて、アクアラインで車がオイル漏れの故障をした。だから横浜の家に犯人も仕方なく寄って、車を直すよりほかなかった、って考えられるわ」
「ということは、あの家の近くの修理工場を当ってみれば・・・」
「その後の足取りが掴めるかもよ」
そう宮岡が言った時、アクアラインのトンネルが終わり、車は地上へと姿を現した。
 東の空はもう白み始めていた。

                        ×       ×       ×

「もう、夜が明けそうだな」
富沢は、稽古場の窓から外を眺めながら、独り言のように言った。
「小沢さん、教えてください。僕には小沢さんが松本さんを脅したり、誘拐したりする理由が分からないんです」
藤本は懇願といってもいい口調で小沢に迫った。それを諭すように富沢が続ける。
「何か、理由があるんだろ。カズさん」
その言葉を聞いて、小沢の表情が少し緩む。そして、ゆっくりと小沢は語り始めた。
「脅されていたのは・・・俺のほうなんだ」


つづく

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